
いよいよ、縄文杉トレッキング当日になります。これまでの準備はこちらにレポートしてありますのでこちらもどうぞ。
縄文杉トレッキング当日の基本スケジュール
縄文杉トレッキングは往復で10〜11時間かかる長丁場の登山です。
そのため、登山口である「荒川登山口」には朝6時ごろに到着・出発するのが一般的です。
ただし、そこに至るまでにいくつかの工程があります。
- 荒川登山口へは「屋久杉自然館」近くのバス停から専用バスで約40分。
- バスは早朝から混雑し、30分程度は待つ可能性あり。
- バス停には4:50頃には到着していたい。
- バス停へはホテルから車で約30分。
- 逆算すると朝4:00にはホテルを出発する必要があります。
- 出発準備なども考えると、起床は最低でも3:30。
これらを踏まえた、当日の行動スケジュールはこちらです:
当日のスケジュール
日程 | 内容 |
---|---|
前日 20:00 | 就寝(できるだけ早く) |
当日 3:30 | 起床・準備開始 |
当日 4:00 | ホテル出発(ガイドさんと合流) |
当日 4:40 | バス停(屋久杉自然館付近)到着 |
当日 5:10〜5:50 | 登山口へバス移動(約40分) |
当日 6:00 | 荒川登山口からトレッキング開始 |
このように、前日の夜は20時には就寝するのが理想です。睡眠不足はトレッキング中の体調不良や集中力の低下にもつながるため、体調管理も計画のうちと考えましょう。

ただ、急にいつもと違う時間には眠れないものです。寝られなくても、横になって目を瞑っていれば寝ているのと同じ回復をしている、と私は思って安心して寝られない時間を過ごしています。
思わぬトラブル。最初の試練は道中にあった
登山当日、午前3時半に起床。4時には、お願いしていたガイドさんが宿に迎えに来てくれました。登山口へ行くバス乗り場へ車で移動です。
外はまだ真っ暗で、車のライトだけが頼りの山道。
そのとき、思わぬトラブルが発生します。
息子が車酔いしてしまったのです。
車を一旦止めてもらい、外に出てうずくまる息子。
まだ星が瞬く夜明け前、私はそのときの満天の星空を今でもはっきり覚えています。
その様子を見たガイドさんが、「予定を変更して白谷雲水峡の軽めのコースにしましょうか?」といってくれました。たしかにこのあと40分、さらにバスで山道を揺られます。無理をすれば、途中で動けなくなるかもしれません。
しかし、数分すると息子は「行く」と言いました。
本心ではどうなのか、不安そうな顔は隠せない様子でしたが、「ここまで来て、諦めるという選択肢は本人にはないのだろう」と思いました。
「バスに乗ってしまえば、あとは寝てればいい。なんとかなる。頑張るぞ。」
そう声をかけ、10分ほど外で休憩したのち、再び車に乗り、無事バス乗り場に到着。
酔いは完全に治ったわけではなかったものの、息子は我慢強くバスの40分も乗り切ってくれました。
荒川登山口からいよいよスタート
車酔いのトラブルを乗り越えて、午前6時頃に荒川登山口に到着。
ここから、いよいよ縄文杉に向けての本格的なトレッキングが始まります。
縄文杉までの道のりは、往復およそ20km・所要時間10時間を超える長丁場。
とはいえ、その大半はかつて屋久杉を運搬するために敷かれた「トロッコ道」を歩くことになります。
トロッコ道は整備されており、急な坂や段差は少なく、緩やかな登りですが基本的には歩きやすい道です。ただし距離が長いので、集中力と持久力が試されます。
歩きながら学ぶ、屋久島と屋久杉の物語
道中、プライベートガイドさんが様々な話をしてくれました。
屋久杉は、樹齢1,000年を超える杉の総称で、1000年以下のものは小杉と呼ばれます。屋久杉は屋久島の特徴的な気候により、通常の杉より樹脂分が多量に含まれた特別な樹木です。樹脂分は腐敗や害虫から守り耐久性を高め、圧縮、引張、曲げの強度も高めてくれます。
- 屋久島に自生する杉で樹齢1000年以上
- 樹脂分が多量に含まれる
- 耐久性が高い
- 強度が高い
その稀有な性質から、建材や船材として使用するために伐採され、トロッコで麓まで運ばれていたそうです。その後、林業が衰退していく中で、島全体が方向転換を迫られていました。当時の屋久島長観光課長だった岩川貞次氏が発見した巨木が昭和42年元日に南日本新聞で紹介されました。やがて「縄文杉」と呼ばれるようになり昭和後期以降は徐々に観光産業へとシフト。縄文杉は屋久島観光のシンボルです。現在では、伐採された屋久杉の切り株すら観光資源として保全され、自然と共存する形で活用されています。
私自身、かつて若い頃にこの道を歩いたことがありましたが、ガイドの話を聞きながら歩くと、同じ景色でも全く違う意味を持って見えるのが不思議でした。おかげで単調なトロッコ道が、「屋久島を学ぶ時間」に変わりました。

息子も、ガイドさんの話に耳を傾けながら歩いており、あっという間に時間が過ぎていきました。大自然の授業です。
ガイドはこちらでお願いしました「屋久島ガイド 巡り葉」(アフィリエイトではありません)。
会話しながら、気づけばトロッコ道の終点へ
歩いている間、ガイドさんは適度に声をかけながら、休憩やトイレのタイミングを見計らってペース配分を管理してくれました。そのおかげで、以前私が一人で来たときよりもずっと体力的に楽でした。
トロッコ道の途中では何度かトイレ休憩を挟みながらも、会話しながら歩いていたせいか、疲れを感じる暇もなく、あっという間に終点に到着。「え、もうここまで来たの?」と思うほどスムーズな前半戦でした。
ここからが本番。いよいよ登山道へ
トロッコ道が終わると、ここからはいよいよ本格的な登山道に突入します。
今までとは打って変わって、足元は根っこや石が張り巡らされた急勾配。しっかりとした登山靴でないと滑ってしまいそうな箇所も増え、厳しい登りが続きます。
それでも、金時山を登った経験が活きていて、「あのときよりは少し楽かもしれない」と思えるくらいでした。息子もまた、弱音ひとつ吐かずにスイスイと登っていきました。

一度登山を経験したことがとても活きたと思います。
登りの途中で食べたおにぎりと、ガイドさんの味噌汁
途中で昼食休憩を取りました。疲れた体に、おにぎりの塩気が染みてやたらと美味しく感じたのを覚えています。
驚いたのは、ガイドさんがお湯を持参していて温かい味噌汁を振る舞ってくれたこと。屋久島の山中で食べるお味噌汁はこの上ないおいしさでした。
ちょっとした気遣いや工夫が、長時間の登山を乗り切るエネルギーになる。それを肌で感じたひとときでした。
最後の一踏ん張り、そして──縄文杉との対面
いよいよ最後の登り。
湘南平のハイキングから始まったこの旅が、ついにゴールに近づいていました。
息子とともに一歩ずつ踏みしめながら、資料集で見たあの縄文杉に辿り着くと思うと感慨深いものがありました。
正直、最後の登りは気持ちが先にいっていたのでよく覚えていません。
ついに──縄文杉へ
縄文杉が目の前に、その姿を表しました。

「やったー!」という達成感よりも先に出てきた言葉は、「すごい…」の一言です。
それまでの道中にも、樹齢数百年クラスの立派な杉の木々はたくさん見てきました。
でも、縄文杉はまったく違いました。圧倒的な存在感、異次元の風格、そして静けさ。
言葉では表現しきれない、自然への畏敬の念が込み上げてきました。
ガイドさんは、息子と私の写真を何枚も撮ってくれました。その写真には、汗だくでクタクタになった親子と大きな達成感が感じられます。
縄文杉との時間、そして帰路へ
到着後は、少し時間をかけて縄文杉をじっくりと眺めました。
横から、正面から、何度も角度を変えてはその姿を目に焼き付けました。
他の登山者もたくさんいましたが、皆が同じように足を止め、しげしげと見つめていました。
「来られてよかったなあ」心からそう思いました。
息子が行きたいと言い出してから約4〜5ヶ月。
準備に準備を重ね、最後には車酔いで断念しかけたことまで含めて、大きな目標を達成した充実感でいっぱいでした。
そして、登山の本当の試練は「帰り道」
ところが――。縄文杉登山において「本当の試練」は、実は下山後半にやってきます。
縄文杉を離れて、同じ道をただひたすら戻るだけ。体力はすでにかなり消耗していて、精神的にも集中力が切れ始める頃です。
特に、帰りのトロッコ道がとにかく長い。3時間は歩きます。登りのときは景色に心を奪われていたものの、帰りは同じ景色の繰り返し。一歩ずつ足を運ぶだけの時間が、延々と続きます。
息子もさすがに疲れが出てきたようで、「あ〜」と弱音を漏らしていました。それでも諦めずに歩ききった姿は、何よりの成長の証でした。
最後に、川の水とガイドさんのコーヒー
登山口の直前で、少しだけ時間に余裕があったので、川辺に立ち寄りました。靴を脱いで、川の水に足を入れると――驚くほど冷たく、そして心地よかった。体中の熱と疲れを流してくれるような感覚。言葉では言い表せない解放感がありました。
そして最後、ガイドさんがリュックから小さなポットを取り出し、
なんとその場でコーヒーを淹れてくれました。
「これで今日持ってきたお湯は終わりです」と笑いながら手渡されたその一杯。
疲れた身体にじんわりと染み渡り、心の底からホッとする味でした。
達成感と、静かな安堵感
こうして、私たちの親子登山は幕を閉じました。
長かった準備も、厳しかった道のりも、今ではいい思い出に変わっています。
「行ってよかった」それだけは、間違いなく言えます。
静かな帰路、そして感謝の気持ち
帰り道、バスでも車でも、息子はぐっすりと眠っていました。
さすがに10時間以上の行程は体にこたえたのでしょう。
しかし、車酔いの心配もなく、安心して宿まで戻ることができました。
すべてを終えて振り返ると、やはり感謝の気持ちがこみ上げてきます。
息子の車酔いからはじまり、道中の案内、ペース配分からコーヒーまで心遣いをしてくれたガイドさん。そして、最後まで歩き切った息子。

自分の息子と、秘境の地・縄文杉へ行く旅。
これは、きっと一生の思い出になるだろうと思います。
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