金を溶かすには?

王水やシアンによって溶解する金の化学反応を示す図 金の科学

王水・シアン・ヨードチンキで読み解く金の意外な弱点


1. はじめに|金は本当に「溶けない金属」?

金(ゴールド)は、酸やアルカリにもほとんど反応せず、空気中でも錆びないという非常に安定した金属です。そのため、「金は溶けない」「金は腐食しない」というイメージを持つ人も多いでしょう。

しかし実は、特定の化学的条件下や高温環境では、金も“溶ける”のです。

この記事では、科学的な視点から金が溶ける4つの方法を紹介し、金属としての金の“弱点”に迫ります。

今回は化学式が多数出てきますので難しい場合は読み飛ばしてください。王水・シアン化物・ヨードチンキという物質を使うと金は溶かすことができるという内容です。


2. 王水による金の溶解

王水とは?

「王水(おうすい)」は、濃硝酸と濃塩酸を3:1の体積比で混合した液体です。見た目はただの液体に見えますが、化学的には非常に強力な酸化力を持つ混合物で、名前の通り“金属の王である金をも溶かす”ことから「王水」と名付けられました。

金が王水で溶ける仕組み

王水:硝酸と塩酸が反応し、塩化ニトロシル(NOCl)と塩素(Cl₂)が生成(参考:wikipedia):

HNO₃ + 3 HCl → NOCl + Cl₂ + 2 H₂O

生成されたNOClとCl₂が金を酸化し、テトラクロリド金(III)酸(H[AuCl₄])を形成(参考:J-Stage):

Au + NOCl + Cl₂ + HCl → H[AuCl₄] + NO

この反応で、金(Au)はAu³⁺に酸化され、塩化物イオンと錯体を形成して溶け出します

この反応によって、通常の酸ではびくともしない金が液体中に取り込まれ、溶けていきます。

用途

  • 金の精錬や金属回収
  • 分析化学や材料研究での溶解処理

3. シアン化合物による溶解

シアン化物とは?

シアン化ナトリウム(NaCN)やシアン化カリウム(KCN)といった化合物は、古くから金鉱石から金を抽出するために使われてきました。

金が溶ける仕組み

  • 酸素と共にシアン化物と反応
  • [Au(CN)₂]⁻という錯体イオンを形成し、金が溶液中へ(参考:Wikipedia

4 Au + 8 NaCN + O₂ + 2 H₂O → 4 Na[Au(CN)₂] + 4 NaOH

注意点

  • シアン化物は猛毒で、わずかな量でも人体に致死的影響がある
  • 環境リスクが高く、現在では代替技術や再利用技術の開発が進んでいる

用途

  • 金鉱石からの金回収(鉱業)
  • 金めっき技術(電解めっき浴)

4. ヨードチンキでも金は溶ける?

ヨードチンキとは?

  • ヨウ素(I₂)+ヨウ化カリウム(KI)+エタノールで構成される消毒薬
  • 日常でもよく使われるが、実は金を溶かす力を持つ

溶解のしくみ

  • KIとI₂が反応して三ヨウ化物イオン(I₃⁻)を形成
  • このI₃⁻が金を酸化し、[AuI₂]⁻や[AuI₄]⁻などの錯体を作って溶解させる

 2 Au + I₃⁻ + I⁻ → 2 [AuI₂]⁻ 

2 Au + 3 I₃⁻ → 2 [AuI₄]⁻ + I⁻

この反応では、金がまず一価の錯体 [AuI₂]⁻ を形成し、さらにヨウ素イオン(I₃⁻)と反応することで三価の錯体 [AuI₄]⁻ へと変化します(参考)。

ただし、ヨードチンキで金を溶かすには比較的多量の溶液が必要です。たとえば、金箔1枚(約0.03g)を溶かすには約2.5mL以上のヨードチンキが必要です。

つまり大量の金を処理する用途には適していません。

用途

  • 教育用化学実験(例:金箔をヨードチンキで溶かす)
  • 金コロイド(赤紫色のナノ金属粒子)生成にも応用

5. 補足:加熱すれば金は物理的に“溶ける”

金の融点:1064.18°C

純金は、1064.18°Cで固体から液体になります。これは「融解」と呼ばれる物理的変化です。

  • 銀(961°C)や銅(1085°C)と同程度で、比較的加工しやすい金属
  • 鋳造・金箔加工・溶接などの工程で活用される

金の沸点:約2856°C

さらに加熱すると蒸発しますが、一般的な使用環境ではここまで加熱されることはまずありません。

合金化の影響

18Kや14Kなどでは、割り金(銀・銅など)によって融点が変化します。


6. まとめ|金の“溶ける”は化学と物理でまったく違う

金は非常に安定した金属ですが、王水・シアン化物・ヨードチンキといった特定の化学条件下では溶解します。また、物理的には1064°Cを超えれば液体になる金属でもあります。

「金は溶けない」と思われがちですが、科学の視点で見ると“意外な弱点”もあることがわかります。

金属の中でも特別な存在である金。だからこそ、こうした性質を知っておくと、金の理解がより深まることでしょう。

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