金ETF誕生以前、金の用途はほとんどジュエリー

金ETFは金を金融資産へと転換させた屈指の発明品です。この商品が生まれた歴史的な背景について、こちらの記事を参考に、わかりやすく解説したいと思います。
また、金ETFの仕組みを知りたい方はこちらです。金ETFの仕組みとは?
現在ではすっかり金融資産としての地位を確立した金ETFですが、その歴史はまだ20年ほどしかありません。 金ETFの代表格「GLD」が上場したのは、2004年のこと。それ以前、金は投資対象としてはほとんど活用されておらず、世界の金需要の大半はジュエリー(宝飾用途)に偏っていました。
下の表は、2002年第一四半期の金の用途別需要を示したものです
項目 | 数値(トン) | 割合 |
---|---|---|
ジュエリー需要 | 623.9 トン | 83% |
小売投資需要(バー・コイン) | 125.6 トン | 17% |
総消費需要(上記合計) | 749.5 トン |
※”Gold Demand Trends Q1 2002″を参考に作成。工業・中央銀行などの非消費分はこの報告には含まれていません。
このように、当時は8割の金がジュエリーとして消費されていたのです。
一方で、投資用途としての金需要はわずか20%弱──金が「価値を保存する資産」であるにも関わらず、その価値は金融市場ではほとんど活用されていなかったのです。
金業界にはWorld Gold Council(WGC)という金の価値を広めるために活動する非営利団体があります。WGCは金の価値を正しく広め、金への投資を普及させることによって、偏った需要を解決したいと考えていたようです。

金ETFが登場する前夜、金市場が抱えていた“見えない壁”だったのです。
なぜ金を買わないのか?
金を買うという行為は、当時の投資家にとって非常にハードルが高いものでした。
主な理由を調べると以下のようだったようです。
- 売買に不安:だまされないよう売買できる信頼できる業者を探す必要がある
- 費用対効果:配当も利息もなく、保有しても保管コスト・購入手数料がかかる
- 購入目的:インフレ対策(価値保存)、分散投資効果への認識が不十分だった

価値はあるのはわかっているけど、面倒なことをしてまで買うほどの商品ではなかったんですね。
WGCは、「とにかく安全に売買ができ、金と完全に価値が相関した投資商品」の開発に取り掛かったのです。
金は特殊な資産
金は「他の資産と相関しない」という特性を持っています。
- 株式や債券と動きが異なり、景気後退時にも価値を保ちやすい
- インフレや通貨不安、有事の際に買われる安全資産
- 分散投資の観点から、ポートフォリオに組み込む価値がある

戦争や景気が悪い時は株は下がりますが、金は上がる傾向があります。
また、インフレなどでも金は上がる性質があります。
この非相関性は、理論的には魅力的でありながら、実際にはほとんど活かされていませんでした。理由はただ一つ投資家が金にアクセスできなかったからでした。
価値保存というニーズを発掘した金ETF
WGCはこのような問題に対して、革新的な解決策を打ち出しました。それが、「金と同じ価値を持つ株式のような投資商品を開発する」ことでした。
2004年、WGCの子会社であるWorld Gold Trust Servicesがスポンサーとなり、米国で世界初の現物裏付け型金ETF「GLD」が誕生しました。運用はState Street Global Advisors(SSGA)、保管はHSBC、信託はBNY Mellon、裁定取引を担う指定参加者(AP)は複数の金融機関が担当しています。
GLDは、証券口座を通じて金に投資できる“新しい形の金”を実現するものでした。
- 金の価格とほぼ一致する値動き
- 売買はリアルタイムで可能(株式と同じ)
- 小口でも投資可能、保管不要
こうして金は、ようやく「使える資産」として投資家がアクセスできるようになったのです。

株式と同じように金への投資ができるようになったんですね。
金ETFが金に与えた影響
現在、最大の金ETFであるGLD(SPDR Gold Shares)の総資産はおよそ1,000億ドルを超えており、ETFという仕組みがいかに多くの投資家に受け入れられたかを物語っています。
金ETFは、価値保存というニーズを掘り起こし、その金額は1,000億ドルという市場規模にまで成長したのです。
金ETFの登場は、WGCが望んだように金市場に構造的な変化をもたらしました。
- 投資需要の増加:ジュエリー需要に並ぶほどに成長
- 市場の透明性と流動性の向上
- 金価格形成への金融市場の影響
かつては贈答品・工芸品として扱われていた金が、今やポートフォリオ構築の柱として世界中で使われています。そしてその扉を開いたのが、GLDをはじめとする金ETFでした。

価値を保存するという金の性質が新しいニーズを掘り起こしたんですね。
まとめ
金ETFの登場は、金にとって「第2の発見」とも言える出来事でした。
金が本来持っていた価値、(1)価値保存性、(2)非相関性、(3)安全資産としての側面、を投資家が実際に使える形にしたことが革命的だったのです。
証券口座で他の金融資産と並べて保有できるというシンプルな設計が、 金という古い資産を、現代のポートフォリオに溶け込ませました。
そしてそれを実現したのは、ETFという金融の仕組みを使って「金を再発明」したWGCの戦略でした。
ETFという枠組みがあったからこそ、 金はただの装飾品や有事の備えにとどまらず、日常的な投資商品へと変わったのです。

おかげで私たちも簡単に金に投資できるようになったので感謝ですね。
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