金はなぜやわらかい?

金はなぜやわらかい?のアイキャッチ 金の科学

科学で読み解くゴールドの加工性とその理由

1. はじめに|金って本当にやわらかいの?

「金って高級なイメージあるけど、実はすごくやわらかいんです」

こんな話を聞いたことはありませんか? 金箔、金線、金メッキなど、金は昔から“のばす・広げる・削る”といった加工がとても得意な金属です。

今回は、そんな金の“やわらかさ”の正体について、科学の視点からやさしく解説していきます。

2. 「やわらかい金属」ってどういうこと?

金のように加工しやすい金属は、材料の世界では「延性(ductility)」「展性(malleability)」が高いと言います。

性質意味
延性引っ張っても切れずに細くのびる性質金線、ワイヤー加工など
展性叩いても割れずに広がる性質金箔、薄板、打ち出し加工など

金はこのどちらにも非常に優れており、なんと1gの金から2km以上の極細ワイヤーを作ったり、髪の毛の1000分の1よりも薄い金箔に広げることができるのです。


3. 原因① 結晶構造が「すべりやすい」から

金の原子の並び方(結晶構造)は「面心立方構造(FCC構造)」と呼ばれます。 これは、金属の中でも特に「すべりやすい=変形しやすい」構造です。

FCC構造では、原子が互いに滑る“面”が多く、力を加えても簡単に割れず、柔らかく形が変わります。金が加工しやすいのもこれに由来すると言われています。アルミや銅も同じ構造をしており、やはり加工性に優れています。

(※図解を挿入予定:面心立方構造のイメージと滑り面)

4. 原因② 純度が高くて「ジャマするものが少ない」

自然界にある金は、実はかなり純度が高い状態で見つかります(いわゆる金塊や砂金)。 これは、金が酸化や腐食をほとんどしない“安定した金属”であることに由来しています。

不純物が少ないということは、金属の中で原子が動くときの「引っかかり」が少なくなるということ。 つまり、結晶の中で原子がスルスルと動きやすく、変形にも強くなるのです。

この純度の高さが、金のやわらかさを支えている重要な理由のひとつです。

5. 原因③ 表面が酸化しないから、割れにくい

多くの金属(鉄や銅など)は、空気中で酸化しやすく、表面にサビや酸化皮膜ができます。

この皮膜は、変形時にヒビや亀裂の起点になりやすく、金属全体がもろくなる原因になります。

でも金は違います。

金は酸素や水とほとんど反応せず、酸化皮膜ができないため、どこまでも「素のままの金属」として、ひび割れにくく加工しやすい状態が保たれるのです。

6. どれくらい“やわらかい”?実例を紹介

  • 金箔:なんと0.0001mm(100ナノメートル)以下の厚さまで加工可能。光が透けるほど!
  • 金線:1gの金で2km以上の超極細ワイヤーが作れることも。
  • 職人の技:金箔職人は、金が吹き飛ばないように息を止めて作業することもあるそうです。

こうした実例を見ると、金のやわらかさがいかに特殊かがわかりますね

7. 加工性の高さは、さまざまな分野で活かされている

分野金の使い方特徴
工芸金箔・金細工見た目の美しさ・加工のしやすさ
電子部品配線、ボンディングワイヤ信頼性、細さ、導電性の安定
医療金歯、インプラント素材加工性と耐食性
宇宙・先端技術薄膜・赤外線反射膜など成膜性と反射率の高さ

こうして見ると、金のやわらかさは“単なる装飾品”を超えて、科学や産業の世界でも活かされていることがわかります。

8. まとめ|やわらかさ=使いやすさ=価値

  • 金は、「やわらかくて加工しやすい」という珍しい金属
  • その理由は、「結晶構造」「純度の高さ」「酸化しにくさ」
  • このやわらかさが、古代から現代まで広く使われてきた大きな理由のひとつ

次回は、このやわらかさが“実用上のデメリット”になることもあるという視点から、「金の純度とは何か?」というテーマを掘り下げたいと思います。

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